今年7月の記事で、「AIの普及によって、「7:2:1の法則」の比率そのものが変わるのではないか」という仮説をお話ししました。(→ 当該の記事へ)
確かにAIは学びの効率を高め、成長プロセスを劇的に変える可能性を秘めていますが、この記事を書いたあと、改めて「7:2:1の法則」の成り立ちや、私たちビジネスパーソンの現場の実態について考え直しました。
そして、私の仮説に欠けている点に気づきました。
それは、比率の変化を論じる以前に、そもそも「7:2:1の法則」そのものが、多くの現場で根本的に誤解され、危険な形で用いられている という点です。
今回は、その記事で書いた私の主張の前提となる「7:2:1の法則」の正体と、“普通”の社員を潰さずに正しく育てるための活用法をお伝えします。

今回もお読みいただけますと幸甚です。
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自戒を込めて言いますが、人材育成・研修界隈の人たちの間で「7:2:1の法則」が都合よく用いられている感があり、そこに昭和世代マネジャーにとってお誂え向きの解釈も加わり、「人の成長の7割は経験によるものだ」という考えが堂々と道の真ん中を歩いている印象です。

人の成長は経験によるものが7割を占めるんです!

若いうちの苦労は買ってでもすべきだ!
もし本気でそのように考えて人材育成しているとすれば、現実離れした考えです。
「7:2:1の法則」をそのまま“普通”の社員の育成に当てはめても、多くの場合、うまく機能しません。それどころか、本当にそれをやると、社員が成長する前に潰れてしまうリスクすら孕んでいます。
そもそも「7:2:1の法則」とは?
まず、「7:2:1の法則」の基本をおさらいします。
これは、経営コンサルティングファームのロミンガー社(現コーン・フェリー社)のロンバード氏、エイチンガー氏らが提唱した「人が何によって成長するか」の割合を示した法則です。
| 割合 | 成長をもたらす要素 | 具体例 |
| 70% | 日常の仕事上の体験・経験 | 困難なプロジェクト、新規事業、失敗体験 |
| 20% | 他者からの助言・フィードバック | 上司からの指導、メンターの存在、他者の模倣 |
| 10% | 研修や書籍などによる学習 | 集合研修、eラーニング、ビジネス書の読書 |
一見すると、「とにかく70%の実務経験が重要である」という結論に見えますよね。
ここで2つの誤解を押さえる必要があります。
誤解1:「ハイパフォーマー」の調査結果を“普通”の社員に適用している
1つ目の誤解は、ロミンガー社の調査結果を“普通”の社員に当てはめていることです。

「7:2:1の法則」のもとになった調査は、厳しいビジネス社会を勝ち抜き、成果を出し続けている「優秀なリーダー」を対象にしたものです。
つまり、「困難な修羅場を乗り越えて成功した、選りすぐりの人たち」の成功体験談 なのです。
優秀なリーダーたちは、もともと「自ら学び取る力(内省力・レジリエンス)」が高いでしょうから、困難なプロジェクトや新規事業の立ち上げといった、難度MAXな現場(=修羅場)に放り込まれても、自力で教訓を引き出し、成長の糧にし、乗り越えることができたと考えられます。
これをそのまま普通の社員に適用できるでしょうか?
適切なサポートや十分な知識がないまま、修羅場に放り出されれば、成長するどころか自信を失い、メンタル不調や早期離職に繋がってしまう可能性が大いにあります。

今の時代、ともすれば、「無茶な仕事を割り当てられた」とパワハラで訴えられるリスクだってありますね。
そもそもですが、数の多い「普通の社員」に任せるほど、社内に修羅場案件はそんなに転がっていませんね。
誤解2:「経験(70%)さえすれば育つ」かのように扱っている
2つ目の誤解は、「経験する=成長する」という安易な結びつけです。
「業務をこなすこと」と「成長に繋がる経験をすること」は全く異なります。経験を成長に変換するためには、必ず「振り返り(内省)」というプロセスが必要です。
このブログでも何度か紹介しています、デビッド・コルブの「経験学習モデル」では、学びは以下の4ステップで構成されています。(4つのステップがサイクルになっています) → 経験学習モデルを紹介したブログ記事へ

- 具体的経験(仕事をやってみる)
- 内省的観察(なぜ成功したか/失敗したかを振り返る)
- 抽象的概念化(他でも使える「持論・教訓」にする)
- 能動的実験(次の仕事で試してみる)
このモデルに則れば、「7:2:1の法則」の「7(経験)」にあたるものは、ステップ1のことを表しています。
ステップ2以降、ここにとても大きな壁が存在します。

人材・組織に関する研究の各種調査(パーソル総合研究所(※1)やリクルートワークス研究所(※2))によると、「日常的に自分の業務を意図的に振り返り、持論化できているビジネスパーソン」は 全体のわずか2〜3割程度 にとどまることが分かっています。
※1=パーソル総合研究所の調査 働く10,000人の就業・成長定点調査
※2=リクルートワークス研究所の調査 全国就業実態パネル調査(JPSED)
多くの(普通の)社員は、
- 「日々のタスクに追われて振り返る時間がない」
- 「振り返り(内省)の正しいやり方がわからない」
- 「反省(ただ落ち込むこと)と振り返り(教訓化)の区別がついていない」
という実態があるのです。
つまり、自発的な振り返りができない7〜8割の(普通の)社員に対して、「経験すれば育つ」という考えに期待することに無理があります。
この点に関しては、松尾(2019)も、経験学習を阻む3つある壁のひとつを「振り返りの壁」と称して、分かりやすく論じています。
※参考書籍:松尾睦 著『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』ダイヤモンド社 2019年
「7:2:1の法則」を一般社員に適用する正しい順序と仕掛け
では、普通の社員の成長支援に「7:2:1の法則」を援用するならば、どうすればよいのでしょうか?
それは、「7」と「2」と「1」を連動させることです。「1」と「2」が基盤にあると、「7」が意味や価値をもってきます。
1(=10%):仕事の「型」と「学び方」を授ける
集合研修の受講や読書などの価値に、業務に必要な知識やスキルといった型の習得にあります。
そして、同じくらい重要なのが、「振り返りの意味・価値」や「効果的な振り返りの手法(経験学習サイクルやKPT法など)」という“学びの型”を理解し、習得させることです。
2(=20%):日々の仕事を「学び」に変える習慣をつくる
上司や先輩の関わり方、具体的には1on1ミーティングやフィードバックの質がメンバーの成長には重要となります。
上司や先輩が1on1で「今日の商談でうまくいった要因は何だと思う?」などと一言問いかけるだけでも大きな内省になります。そんなちょっとした問いが、メンバーが自分だけではできない/やらない振り返り(内省)を支援することになります。
他にも、メンバーが自己認識力を高め、能力向上に繋げるためにフィードバックを提供したりするのも良いでしょう。
これにより、「経験から学びを得て、成長につなげるパターン」、つまり経験学習モデルのステップ2とステップ3の習慣化が成立します。
7(=70%):「背伸びした仕事」に挑ませる
業務知識・スキル、学び方の習得(10%)、振り返りの習慣化(20%)という基盤が整って初めて、経験(70%)を成長に変換することができます。
メンバーに任せる経験のレベル感ですが、修羅場レベルは不要です。メンバーの実力より少し高めの、背伸び仕事を任せましょう。
修羅場レベルどころか、背伸びレベルの仕事ですら嫌がるであろうメンバーも、「振り返りの意味・価値の理解」+「マネジャーの支援」があれば、挑戦する意識が芽生え、そのうちに成長や変化を実感できるようになるでしょう。
まとめ
今日の内容をまとめます。
- 「7:2:1」は「自力で学べるトップリーダー」に関するデータであり、普通の社員にそのまま当てはめるのは危険
- 普通の社員は「振り返り」を一人で行うのが難しいため、経験頼みでは成長しない
- 10%(業務知識・スキル、学び方)と20%(周囲の振返り支援)があって、70%(背伸び経験)が成長を促す
「どんな経験でも、経験さえすれば人は育つ」という考えは、残念ながら普通の社員には当てはまりません。
結論:「7:2:1の法則」を正しく理解し、普通の社員が経験から学びを得て成長に繋げられる「仕組み」と「関わり」を作ることが人材育成には必要です。

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