多忙極まりないマネジャーの皆さんに、何か役立つヒントは無いかと思い、本屋さんを探索し、今回は
加藤定一 著『プレイングマネジャーの 仕事の任せ方 大全』三笠書房 2025年
を読んでみました。著者は、研修講師/組織コンサルタントをされているようです。
“大全” とはえらく大げさなタイトルだなと思いながら購入し、読んでみたのですが、丁寧に部下育成のハウツーが書かれていました。
部下に残業をさせられない、仕事を任せるとハラスメントだと訴えられそう、そういった理由で、仕事を抱えがちなマネジャーの皆さんにとって、部下に仕事をどう任せればいいのかについて悩んでおられる方々は多いのではないでしょうか。
そういった方々にとっては、この本に複数のヒントが書かれています。あと、評価時期になると気が重くなるマネジャーの皆さんにとっても有益なTipsが書かれています。
以下は私の感想です。ご参考までに。
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部下と収入に関する話をしよう
本の中で、「部下の価値観」を理解しようと書かれています。
一般に、人が行動を起こす際に、より重要視されるのは(「強み」ではなく)「価値観」のほう(97ページ)
だそうです。なお、価値観とは「何をやりたいか」「何が大切か」という「希望や志向」のことを言っているようです。
自分にとって「何が大切か」を考えたときに「収入(お金)」と想起する人は結構多いと思います。皆さんもそうかもしれません。しかし、部下との会話の中で収入(お金)に関する価値観を聞くことはそう多くないと思います。

なぜなら、部下の収入をマネジャーが独断で決められるわけでもないですし、寝た子を起こすかのように、こちらから収入の話を持ち出して、お給料(や評価)に対する不平不満をぶちまけられても困りますしね。更に言えば、日本人の美徳?なのか、収入やお金に関する話をするのを控える傾向もありますよね。
ですが、著者は、

この状況は良くない。なぜなら、部下がどんな生活を送りたいかを把握し、そこに向けて最善の助言や機会の提供をすることは、上司の大事な使命のひとつだから(99ページ)
と言っています。(積極的に話したくないという部下には無理に詮索してはいけないとも言っていますが)
私は、これを読んで「なるほどな」と思いました。
会社の中で、マネジャーという役割を担い(仮面をかぶり)、会社の用意する諸制度を活用して部下をマネジメントする身として、収入の上げ下げに関する裁量権は弱いが、その点は部下も何となく認識していることですし、聞いて損はないかなと。
日々のマネジメントにどう役立つのかは分からないが、何かのときに部下への動機づけのメッセージになり得るかもしれないとも考えました。

皆さんはどうお考えですか?既に部下と収入やお金の話をしていますか?
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職能資格制度を前提にしている内容?
誰に仕事を任せるのかを論じているパートで、以下の6分類を挙げています。(108~114ページ)
①成果が期待できる人に任せる
②成長が必要な人に任せる
③モチベーションの高い人に任せる
④向いている人に任せる
⑤やるべき人に任せる
⑥救世主に任せる
この選択肢を見ていると、この本の内容は、前提として職能資格制度があるのかなと感じました。
役割等級制度のような、ジョブ型的な制度では、各ポジションにその役割を果たせる人をアサインしているはずですので、成長やモチベーションという観点を踏まえる必要性はあまりないはずです。
また、上記⑤が書かれているところに、「相応の社歴を持つ社員なら」という表現が書かれていますが、これも職能資格制度をイメージさせます。(ジョブ型であれば、社歴はあまり考慮しませんので)
そこで思ったのは、
「できて当たり前」のことを指示しますので「いい成果」であっても特に称賛すべきものではありません。(112ページ)
とありますが、ジョブ型の制度下で「当たり前の成果」は称賛に該当しないかなと。更に思ったのは、上司が部下を育成するという概念も弱くなるかなと。

育成はほぼ不要で、キャリア形成支援が上司の役割になりますね。新人・若手はメンバーシップ型の人事制度を残しているのであれば、従来の育成はまだ残ると思いますけど。
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業務指示は「指示・命令」?「依頼」?
上司の業務指示は「指示・命令」です(154ページ)。
トップダウンでいいのです。(155ページ)
と著者は言っています。以下のようなセリフはNGだと。
●これ、やってくれるかな?
●できればお願いしたいのですが・・・。
●お任せしても大丈夫でしょうか?
これらは「依頼」だそうです。
「依頼」は対等な立場にある者同士の間でも行われ、依頼された側に実行の選択権があります。(154ページ)
とありますが、私には、依頼された側に「実行の選択権がある」という表現に違和感が持ちました。
依頼する側(マネジャー)からすれば、仕事を任せる際に誰に任せるのかの選択権があるはずです。「あなたが最も役割を果たしてくれそうなので、あなたにこの仕事を任せたい」と。
会社側・マネジャー側には事業戦略があり、それを遂行するのにベスト(ベター)な人材を探し、アサインしたいのであり、一方で、キャリア自律が謳われている昨今、従業員側には主体性が求められるわけで、会社や職場、仕事を選ぶ権利は行使するのが目指す世界観かと考えます。
そう考えますと、仕事を任せるという行為は、トップダウン(指示・命令)でもボトムアップでもなく、双方の合意による契約というイメージを持つのが理想なのではないでしょうか。

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今日は、
加藤定一 著『プレイングマネジャーの 仕事の任せ方 大全』三笠書房 2025年
の本の感想を書きました。久しぶりに、バリバリのハウツー本を読みましたが、新鮮で、忙しいマネジャーにとって、仕事を任せることや権限委譲は重要なことだと再認識しました。
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