前回の続きです。(→ 前回のブログ)
プロフェッショナルなマネジャーになるために、個人としてできること。
専門書をたくさん読む
マネジメントに関する一定程度の量の文献を読んで勉強しましょう、です。

「えっ、その程度のこと?」と思われるかもしれませんが、これまでにリーダーシップやマネジメントに関する書物を何冊読んだことがありますか?
ジャック・ウェルチさん、マイケル・デルさん、ルイス・ガースナーさんといった、海外の有名経営者を取り上げた本がありますね。日本では、故松下幸之助さん、京セラの故稲盛さん、ユニクロの柳井さん、ニデックの永守さんなどの本が出版されています。
ここで注意したいのは、それらはトップマネジメントのことが書かれた内容です。ミドルマネジャーとは役割が異なります。ましてや、トップマネジメントの方が創業者やオーナー社長であった場合、市井人であるミドルマネジャーとでは、部下や周囲への影響力(パワー)に大きな違いがあります。それでは真似しようとは思えないのが自然な気がします。
更に言えば、お国柄や当時の景気など、経営の文脈が読み手の置かれている状況とどこが似ているのか/異なるのかが不明なため、本の内容を実践してみようという気になりづらいのが現実ではないでしょうか。

では、ミドルマネジャー向けに書かれた本はどうでしょうか。最近で言うと、1on1ミーティングのコツや心理的安全の作り方などのようなノウハウ本がたくさん出版されています。

それらの本には日々のマネジメントで役立つことが書かれていますが、プロフェッショナルなマネジャーになるためにできるだけたくさん読んだほうがいいものは、ミドルマネジャーのリーダーシップやマネジメントを調査・研究している人が書いた文献(専門書、論文など)です。
大学の研究者が書かれたものとしては、例えば、
金井壽宏 著『変革ミドルの探求』白桃書房 1991年
小野善生 著『フォロワーが語るリーダーシップ』有斐閣 2016年
高橋潔 著『ゼロから考えるリーダーシップ』東洋経済新報社 2021年
坂爪・高村・佐藤・武石 著『管理職の役割』中央経済社 2020年
などがあります。(まだまだたくさんあります)
研究者のお作法に従って書かれている場合、初めは読みづらさを感じるかと思いますが、この手の本を何冊も読み続けていくと慣れています。
なにより、研究者の書かれる内容は、事象の一般化・普遍化を意識して書かれていますし、ご自身の研究の限界も認識されたうえで論じておられます。そして、様々な角度(先行研究、概念、仮説)からミドルマネジャーを観ておられますので、自分にどう当てはめられそうか/そうでないかを想像できますし、多面的にミドルのマネジメントを理解できます。
結論:プロフェッショナルなマネジャーになるために、アカデミアの知を利用し、現場に活かすことです。
私自身は、ミドルマネジャーになる前に、以下の本と、この本のあとがきに書かれている参考文献10数冊を読みあさり、マネジメントに興味を持つ大きなきっかけになりました。
金井壽宏 著『リーダーシップ入門』日本経済新聞出版 2005年

私のバイブルです。こちらもお勧めです!
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ライン部門からスタッフ部門への異動
プロフェッショナルなマネジャーになるための次のアイデアは、個人の意向だけでは叶わないかもしれませんが、現在あなたがライン部門のマネジャーであれば、スタッフ部門のマネジャーへ挑戦しましょうというものです。
それは、以下の本をヒントが書かれています。
金井壽宏 著『仕事で「一皮むける」光文社新書 2002年
M.マッコール 著『ハイ・フライヤー』ダイヤモンド社 2002年
これらの本は、世の中で活躍しているビジネスパーソンにキャリア上で「一皮むけた経験」「成長を促した経験」を聞き、それをまとめたものなのですが、いくつかある経験の中に、
ラインからスタッフ部門への配属
が挙げられています。
ラインからスタッフに異動すると、仕事を客観的に捉えられる機会になるとか、What構築能力(課題発見・課題提起する能力)が習得できるとか書かれています。それまでにない思考やスキル、例えば「企業戦略、企業文化の理解」や「曖昧な状況への対処」なども身につくようです。つまり、スタッフ部門に異動することで、物事を俯瞰的・中長期的にみる能力が磨かれるのでしょうね。
私が、プロフェッショナルなマネジャーを生むために「異動」をお勧めするのは別の理由です。

それは、畑違いの部門へ異動することは、自分のマネジメントについても俯瞰する機会になるからです。
今までとは異なる環境で組織をマネジメントをしなくてはならない・・・・。しかも、部下のほうが専門性を持っている・・・・。そうなると、自分には何ができるのかと考え、自分の役割はマネジメント職であるという自覚が生まれ、マネジメントを学ぶようになるのではないでしょうか。
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異動に関しては、興味深い実話があります。
以前に、仕事上で出会った外資系製薬メーカーの営業教育担当の方からこんな話を聞きました。

うちの会社の黄金ルートは、営業(MR)→営業教育担当→営業マネジャー→支店長なんです。マネジャーになる前に、必ず営業教育部門を数年経験してもらうんです。
さて皆さん、なぜだと思いますか? その方に理由を教えていただきました。

教育担当になると、日常業務を整理して考えることの有用性に気づくんですよね。きっと概念化能力が高まるんですね。ドクターとの面談場面もそう。営業マネジャーが部下にコーチングをする場面もそう。教育部門にいる間に、同じ内容の研修に何度も同席するので、役得です。誰よりも研修内容を理解することができます。

だから、現場に戻って営業マネジャーになった際、教育部門時代に習得したことを現場で実践すると、組織を上手にマネジメントできるので、うちの会社では、いずれは支店長クラス以上にと期待している人物に関しては、営業教育担当を経てから営業マネジャーにするというルートを用意しているんです。
私は、「なるほど、いい仕組みだ」と思いました。
単に「ラインからスタッフ部門へ異動」、「出身部門以外の部門でのマネジャーに異動」という手段だけでなく、「キャリアの途中で教育部門・研修部門への異動」もプロフェッショナルなマネジャーを生む手段として有益と考えます。
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いかがでしょうか。
プロフェッショナルなマネジャーを生むためには、他にも、360度サーベイの設問項目1つひとつについて、(できれば個別コーチングで)マネジャーにしっかりと内省させ、プロフェッショナルなマネジャーの言動を理解してもらう機会を定期的に用意するという手段もありますね。

他にアイデアや実例があれば、是非教えてください!
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