日本国内のコーチングの市場規模は拡大しているようです。皆さんの会社でも、マネジャーに対してコーチング研修を提供したり、マネジャー自身が外部コーチからコーチングを受けるような取組みをしておられるかもしれませんね。

私はこれまで様々な会社でコーチングに関する支援をしてきましたが、マネジャーの皆さんと話をしていると、こんな意見や反応をもらうことがあります。

部下に質問を投げても、黙ってしまい、答えが全く返ってこないんですよねー

部下に質問を投げても、「どうしたらいいですか?」って聞き返されるだけですよ

部下に質問を投げても、「さぁ?」と言うだけで、考えようとしないんだよなあ
う~ん・・・。
だから、部下には(コーチングではなく)アドバイス(=ティーチング)するしかない/そのほうがてっとり早いと、マネジャーの方々は考えているように、私には見えます。
関連して、マネジャーの皆さんからこんなセリフも出てくるときがあります。

部下に主体性(自主性)がないんですよねー
う~ん・・・。
まるで、自分には主体性(自主性)があるけれども、部下にはないと言わんばかりの言いっぷりに、私には聞こえるのですが、本当にそうでしょうか。
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そんなとき、立教大学経営学部の中原先生が書かれたブログ記事のことを思い出します(→ 中原先生のブログ記事へ)。記事に書かれている「あなたの組織の中に主体性を喪失させる仕組みがある」という点に、本当にそうだよなあと強く共感・同意します。
人が本来もっている主体性を徐々に削ぎ落とす出来事が、組織の日常で至るところにあるのでしょうね。

例えば、新人・若手の頃に
▲ 自分で考えたアイデアを上司に提案したが、「余計なことはするな!」と言われた(怒られた)
▲ 自分で考えたアイデアを上司に提案し、「わかった。検討する」と言われたが、その後ノーレスポンス
▲ 上司から一方的に指示・命令が下りてきて、反論はもとより、意見する機会すらない
▲ 何をやろうがやるまいが、評価が変わらない
▲ 何をやろうがやるまいが、フィードバックが全くない
といったことを繰り返し経験したり、そんな経験談を周囲から聞けば、「やるだけ無駄」とか「頑張るだけ損」とかいったことを徐々に学習し、個人の主体性は失せていき、言われたことだけ粛々とこなす人材になってしまう・・・。そりゃあ、そうなりますよね。
やがて時間が経過し、主体性のない人物がマネジャーなると、自分がやられた通りの接し方を部下にする。つまり、
▲ 部下がアイデアを提案してきたが、「余計なことはするな!」と叱責する
▲ 部下がアイデアを提案してきたが、「わかった。検討する」とだけ言い、放っておく
▲ 部下へ一方的に指示・命令を伝え、彼らから質問や意見を受け付ける機会をつくらない
▲ 部下が何をやろうがやるまいが、評価にメリハリをつけない
▲ 部下に対して、何のフィードバックもしない
こんなことをやっていると、部下は言われたことだけ粛々とこなす人材になる。そして、そうやって育てられた(?)人物がいずれマネジャーになり、同じような言動を部下にとる・・・・。

まさに、組織の中に「主体性のない人材」を養成する仕組みが組み込まれていますね。
以前に比べると、国内の人材の流動性が高まってきていますので、上述したような仕組みをもった組織には、主体性を失った人材(あきらめ人材??)だけがその組織に残り、競争優位性を失い、社会から必要とされなくなり消えていく。残念ながら、そんな時代になってきていますね。
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ここまでを整理しますと、「部下に主体性がない」という言葉が出る組織では、きっと
1. 上司は部下の主体性を奪っている/失わせるような言動ばかり
2. 元気な部下も徐々に主体性を失っていく (主体性の発揮したい人材は転職していく)
3. 主体性のない人材がいずれマネジャーになると、部下の主体性を奪う/失わせる
4.1~3が仕組みとなっている
ということです。
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ついで、私の経験上、上記のような仕組みが染みついている組織では、以下のような状況もありそうです。
■ 上司は、その上司に頭が上がらない/モノが言えない
■ 同期・同僚は仲良しで、お互いに厳しいことを言うことはない
■ 経営陣どうし、マネジャーどうしは仲良しクラブで、クリティカルなことでも本音を言えない

こんな組織に明るい未来なんて絶対にきませんね。
組織全体として、この仕組みの存在に気づかないと「主体性削ぎ落とし機能」は延々とWORKしますね。

しっかり組織文化として根付いているでしょうから。
会社として、「変革」だの「挑戦」だのと掲げて、人事制度を変えたり、コーチングやら1on1ミーティングやらを導入したとしても、主体性をめぐる、この仕組みの存在に気づき、本質を(しつこく)変える努力を経営者からやっていかないと、【何にも変わらない】に私の全財産を賭けてもいいくらいです。

特にJTC(伝統的な日本の企業)の中にそんな組織が多いでしょうね。自分たちの過去を(全)否定できない組織はダメでしょうね。(いつまでも過去を誇っているような組織は変わりませんね)
よく言われる話ですが、過去の成功者が現在の組織の上層部にいますので、過去の否定は自己否定につながりますので、できないんでしょうね。
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経営陣も、マネジャーの皆さんも、組織や部下の主体性の無さを生み出している原因と責任は、自分に(も)あるという自覚を持たないといけません。客観視できる立場では決してなく、関与者なのだという自覚です。
これは組織文化の変革になりますので、相当な時間がかかると思いますが、経営者もマネジャーも部下に対して、中長期的な話(ビジョン、戦略)と、短期的な話(期待役割、期待成果)に関して説明と対話の機会を持ち、従業員や部下と合意することを大前提として、
★ 私の言うことをやっときゃいいんだ、というスタイルは 完全に 捨てる
★ 部下を信じ、自らに考えさせ、決めさせ、それを支援するマネジメントスタイルを基本とする
★ 部下がやったことに関しては、丁寧にフィードバックを 必ず 提供する

経営者、マネジャーがこれらのことを徹底して実践できれば、組織は少しずつ変わっていくと、私は思います。
私の実践知を中心にモノを言っていますが、アカデミアが生み出した理論知を活用して、社員の主体性を生み出すためにどんなことをすればいいかは、今回紹介しました中原先生のブログ記事内に書かれていますので、そちらを参考になさってください(→ 中原先生のブログ記事へ)。
おわり
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