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人員削減施策後、残った人(レイオフ・サバイバー)の論文を読んでみて

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非常に興味深い論文を読みました。(紹介してくださったMさん、ありがとうございます!)

中丸世紀・原恵子・大塚泰正(2021)外資系企業の人員削減状況下において、現職維持を選択した日本人従業員の心理プロセスの検討 産業カウンセリング研究22(2),39-54

変革に伴う人員削減に伴い、組織を去っていく人、組織に残る人がいます。組織に残る人のことを“レイオフ・サバイバー”と呼ぶようで、これまでに海外を中心に、レイオフ・サバイバーの研究が行われてきたようです。

なお、この論文の研究概要を以下の通りです。

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研究目的:
人員削減後から発生する心理的反応が、その後選択される行動にどのような影響を及ぼすかに焦点を当て、企業に残り勤務を継続している日本人従業員の心理プロセスを探索的に検討すること

リサーチ・クエスチョン:
①人員削減後に発生するレイオフ・サバイバーの心理的反応はどのようなものがあるのか、またそれらはどのように変化していくのか
②それらの感情や心理的反応が日本人レイオフ・サバイバーのその後の決断や行動にどのようにつながるのか

調査対象者:
過去2年以内に大規模な人員削減が行われた外資系企業2社に、引き続き勤務している日本人従業員10名(男女5名ずつ)

調査方法:半構造化面接によるインタビュー

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調査結果&考察

人員削減に対する心理的反応の変化を ①人員削減施策導入初期 ②混乱期 ③意思決定期 と3つの時系列でまとめています。

②の混乱期における心理的反応が複数挙げられていますが、「会社と心理的距離を取る」、「転職を積極的に考える」、「勤労意欲が低下する」といった反応のカテゴリーがあるようです。

つまり、今風に言えば、人員削減施策は、

エンゲージメントがダダ下がり

になるということです。まあ、これらの調査結果は想像の範囲内ですよね。

③の意思決定期の心理的反応には、「前向きな理由により会社に残る」人もいるようですが、生活やローンがあるからとか、転職が年齢的に厳しいからとかいった消極的なものも(やはり)ありました。

また同僚との付き合い方は「上っ面な付き合いをする」とか「同僚の陰口を言ったり非難する」といったような感じもあるようですし、仕事は「求められる以上のことはしない」、そして、「上司に取り入るように裏工作をする」なんてことも起こるようです。

応援団長
応援団長

人員削減前の職場の関係性や、上司・部下間の関係性がよほど良くないと、こういった感じになるのでしょうね。よほど良かったとしても、その状態が維持されるのは非現実的かと。

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「前向きな理由により会社に残る」人の理由に対する考察として、本研究者らは、先行研究(変化を楽観的に捉えたり、
ウェルビーイングや満足感が高い従業員は組織変更に対して肯定的な反応や態度を示す(Armenakis et al., 1999: Holt et al., 2007)など)を踏まえ、

本研究者
本研究者

変化を楽観的に捉えるようなサバイバーは、変化への多様な対処することで、会社が求める従業員像に自分を変化させることにより、残された資源を使い仕事を行うような肯定的な反応や態度を示し、従業員が自発的に職場の従業員を助け、組織のためになることを積極的に行う

のではないかと考察しています。

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論文を読んで思ったこと

人員削減なんてないほうがいいに決まっています。ですが、現代のビジネス環境をみますと、一生安泰のビジネスなんてないでしょう。一生どころか、5~10年先でさえ、安泰かもわかりません。

会社は、掲げるミッション・ビジョンを実現するために儲かりそうなビジネスを考え/見つけ、投資し、そこで勝ち続け、その間に新しいビジネスを考え/見つけ、投資し、次の儲けの源泉にすることを必死に目論んでいるはずです。

そして、勢いのない/なくなった/なくなりそうなビジネスにはきっぱりと見切りをつける(いわゆる事業ポートフォリオ変革)。

その際に(外資系企業では)人員削減は発生しがちです。そうしないと、サヴァイヴしていけませんから。

日系企業は外資系企業よりも人員削減を堂々とやりづらいので、リスキリングという言葉を使って、個人の変革を求めていますが、もともとキャリア形成への意識が低い従業員に「いきなりリスキリングせよ」と言ってもムリゲーです。

さらに言えば、会社側がビジョン(将来の事業ポートフォリオとそこへ至る道筋)を従業員に示していないことが多く、リスキリングなんぞ進むわけがありません。

中長期的な事業ポートフォリオと、それに準じた人材ポートフォリオを提示せず、儲からないビジネスに見切りをつけ、人員削減とリスキリングを押し進めようとする会社における従業員の心理やいかに。

今回の論文は外資系企業を対象にしていましたが、日系企業で行われる人員削減は、もっと闇深く、重苦しい心理プロセスがあるように思えました。

応援団長
応援団長

普段、いい加減なマネジメントをやっていると、人員削減などの厳しい状況下では、そのツケが大きく出る気がします。

マネジメントの役割はあいまいだという説がありますが、それでも大切なこと、人や組織を扱う上で押さえておきたい基本のようなことはあります。それを学ぶことが、ミドルマネジャーの身を守ることにもなると思います。

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