パーソル総合研究所さんの公開しているハラスメントに関する調査・研究コラムのタイトルに、「ハラスメントの「回避」が部下の成長を妨げる」とあります。 → パーソル総合研究所さんのサイトへ

マネジャーの皆さんは、部下にハラスメントと受け取られるような言動は避けるように心掛けておられると思います。

今回は、ハラスメントを回避する行動がもたらす影響に関して、あれこれ書いていきます。お付き合いいただけますと嬉しいです!
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部下を飲みに誘えないのはいいことだ。リスクヘッジになる
世間の多くのマネジャーは、部下からハラスメント行為だと思われないように、自らの言動に注意しているのではないでしょうか。パーソル総研さんのコラムにも書かれていましたが、「ハラスメントを回避するため、部下を飲みに誘わないようにしている」といった言葉は、マネジャーの皆さんから実際に聞くことがあります。
少し前のブログに書きましたが、飲み会を人間関係構築や仕事を円滑に進めるための手段と考えるのはもう止めにした方がいいでしょう(→ 当該のブログ記事へ)。もはや、そんな時代ではありません。「部下を飲みに誘う」のを止めれば、“酔っぱらってやらかしてしまう”というリスクが減ります。
更に、マネジャーの皆さんが部下にハラスメント行為をすることを回避するだけでなく、飲み会に同席しているメンバーが他メンバーにハラスメント行為をすることを回避することにもなります。

そう考えれば、ポジティブなことではありませんか。
年齢により毎年給料が上がる時代ではありませんし、近年物価が上がっています。そして、プライベートの時間を大事にする人が増えてきているという調査も散見されます(→ HRプロさんの記事へ)。
海老原(2025)によると、欧州の労働者は、物価の高さもあり、「外食ディナーをするのは友人が遠くから来た時や誕生日くらい」と書かれています。つまり、会社が終わればプライベートな時間。お給料がジョブで決まっており、無理に残業はしない。なので、会社の人と仕事帰りに飲みに行くことなんてしない。
日本も近いうちにそんな時代になるかもしれません。
飲み会をやってはいけないということではありません。気の合う者どうしで行くのは自由ですが、飲み会をあてにした職場内の人間関係構築を止めましょうということです。それが、ハラスメントのリスクを減らすことにもなりますので。
参考図書:海老原嗣生 著『静かな退職という働き方』PHP研究所 2025年
ハラスメントを回避するのもハラスメント
津野(2023)に、パワハラ上司は「脱線型」「専制型」「放任型」の3つのリーダーシップ形態に分けることができるとしています。
その中で「放任型リーダーシップ」について、パワハラの発生と関連する破壊的リーダーシップの中でも最も高頻度で観察されるもの(121ページ)として、その特徴は以下のように書かれています。
放任型上司の特徴
・部下と積極的に関わると「ハラスメントだ」と訴えられかねないので、部下とは最低限の関わりしか持たないようにしている
・決断や判断を避ける
・部下が誰かをいじめていても、止めに入ることはしない
・出張や会議で忙しく、部下がいる職場を不在にしがちである
・部下をほめたり、ねぎらったりすることはほとんどない
・仕事に対する情熱を語ったり、目指すべき将来像を語ったりすることはない
いかがですか?

パーソル総研さんのコラムにも書かれていますが、パワハラ防止研修が、放任型上司を増やしているようです。そのせいかどうかはわかりませんが、日本には放任型上司が多いとのことです。
パーソル総研さんのコラムでは、ハラスメントの回避が部下の成長を妨げると書かれていますが、ハラスメントを回避することがハラスメントなんだということです。
津野(2023)は、パワハラ上司にならないための提言を幾つか書いています。その中の1つに、
他者からフィードバックをもらう
とあります。自分が周囲からどのように見られているのかを知り、自らの言動を調整することに挑戦することです。
部下のほうからマネジャーに対してフィードバックをくれることなど殆どありませんよね。
360サーベイやアップワード・フィードバックのような仕組みのある会社で働かれている場合、その機会を積極的に利用すること。そういった仕組みのない会社で働かれている場合、自分から部下に自分の言動に関して率直なコメントをもらうことに努めること。
自分から部下にフィードバックをもらいに行くことは、精神的にハードルがあると思いますけど、それを乗り越えた先には、パワハラ回避という消極的な側面だけでなく、自らのマネジメント能力の向上、さらには組織力の向上という大きな果実を得られる可能性を感じませんか。

参考図書:津野香奈美 著『パワハラ上司を科学する』筑摩書房 2023年
またまた出ました!上司向けアドバイスの常連ワード「傾聴」
コラムの中に、「ハラスメントを回避しながら部下を成長させる」ことができているマネジャーの特徴として、「傾聴行動」を挙げています。そして、「この「傾聴」については、上司と部下の認識ギャップが大きい行動でもある」と書いてあります。

私は普段から部下の話をちゃんと聴こうとしているよ・・・
と言っているマネジャーも、部下からは「ちゃんと聴いてもらっていません」と言われるかもしれないということです。
津野(2023)も、パワハラ上司にならないために積極的傾聴(Active listening)を推奨しており、このように説明しています。
積極的傾聴は、以下の3条件で構成されている。
1.相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとすること(共感的理解)
2.相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴くこと。相手を否定せずに、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴くこと(無条件の肯定的関心)
3.聴き手が自分の気持ちや疑問を率直に伝えること(自己一致)
どうですか。本当に傾聴できていますか?
単に部下の言っていることを口を挟まずに「フムフム」と聞くだけではないのです。そう言われると、ちゃんとできている自信がないというマネジャーがいるのではないでしょうか。
積極的傾聴を実践し、部下との心理的距離感を縮め、成長支援していけるといいですね。
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今回は、パーソル総研さんのコラムをもとに、ハラスメントの回避に関して書いてきました。

組織を真っ当なマネジメントで運営しているマネジャーの皆さんをバックアップしてくれる上級マネジャーがいてくれるといいですよね。従業員の声に過度に反応し、突然梯子を外すような上層部だと、安心して組織運営ができませんので。
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