元同僚の小林祐児さんがまた本を出されました。
小林祐児 著『職場の対話はなぜすれ違うのか』光文社新書 2026年
いつもながらですが、様々な学問からの視点を用いた考察と調査データ、臨床経験に基づいての論旨がとても面白かったです。
こんなマネジャーの皆さんには読んでほしい!
多くの企業で導入されている「1on1ミーティング」や「キャリア面談」を中心に、“対話しよう!”という風潮が近頃のビジネス界、というより人事界隈を席巻しています。
ミドルマネジャーの皆さんも、研修などの機会で “部下と対話しましょう” というメッセージを聞かれたことがあるのではないでしょうか。
そんなメッセージを聞いて、ミドルマネジャーの皆さん、こんな感じで認識していませんか?
1.対話という言葉に、何の疑問も意識も持っていない
2.「とにかく、部下の話をもっと聞けってことでしょ」という程度に認識している
3.「部下と、業務以外の話をもっとやれってことでしょ」と思っている
いかがでしょうか?
そして、会社や人事が「やれ」と言うからと、1on1ミーティングやキャリア面談で対話を何度か試みたものの、部下の反応が良くないと、
■ 自分もメンバーも忙しいので、こんなのやっても時間の無駄だ
■ メンバーに「なんか話したいことある?」と聞いても「ない」と返ってくる。対話なんて無理
■ メンバーにキャリアのことを聞いても「特にない」と言われる。キャリア面談なんて意味ないよ
■ メンバーが本音を話してくれないから場が盛り上がらない
なんて思うに至り、対話を「面倒だ」とか「無意味だ」とか感じていませんか。
もしそうであれば、今回紹介している本は一読の価値ありです。どうしてこんなに対話がうまくいかないのか、疎んじられるのか。読むと、「なるほど」や「確かに」が得られると思います。
本には、うまくいかない理由に関して様々なことが書かれていますが、最終的には解決策が書かれています。解決策は、会社として検討すべき施策もあれば、ひとりのマネジャーとしてできることも多く書かれています。
以下に、私が本を読んで、ここは多くのミドルマネジャーの皆さんに役立ちそうなことを3つ書きます(ネタバレあり)。お付き合いください。
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“習慣化された無難さ”こそが、目線誘導のための最大の敵(253ページ)
対話を成立させるために、この本の中では “コモン・センス” の大切さを主張しています。
コモン・センスとは
「みんなもこう思っているだろう」「みんなもこれを知っているだろう」という予期(124ページ)
組織内で対話する際に役立つ「共通の前提」のことなのですが、そのコモン・センスを組織内に(再)設計するために、組織メンバーの目線を誘導しよう!と、著者は提案しています。
例えば、期初に行う方針発表は、組織メンバーの目線を集め、組織内にコモン・センスを生み出す意図でやっていますよね。

ここで、方針発表の様子を、冷静に、客観的に見つめ直してみてください。聴き手である組織メンバーは懸命に、方針を理解しようと聴いているでしょうか。
私の見立てでは、多くの場合で「NO」です。メンバーは聞き流しています。しばらく経てば、内容をほぼ忘れているでしょう。それでは、上司とメンバーとの間で方針に関する対話は成立しません。
ではどうすればいいか。本の中では「ひとさじの力」として、3つのポイントを紹介しています。その中の1つ「時間のひとさじ」に私は強く同意しました。
多くの会社では、なにか施策を周知するとき、「決まったこと」「やってほしいこと」という「現在と目先の未来」の情報しか伝えません。しかし、どんな会社にも、その決定に至るまでには過去からの変遷や文脈があるはずですし、「今決まったこと」の背後には、そこで目指される何かしらの未来のビジョンがあるはずです。(255ページ)
施策には必ず「変えたい過去や現在」があるはずです。それをいかに生々しく伝えるかによって、聞き手の心に刺さるメッセージになります。同時に、目先の将来だけでなく、「我々は中長期的にどうなろうとしているのか」という未来を知ることにより、ワクワク感ややる気が生まれてくるのではないでしょうか。
組織メンバーが流して聞いているような方針発表には大した意味がありません。工夫しましょう。
「聴く」ことに対する誤解を解く(276ページ)
本にも書かれていますが、多くのマネジャーの皆さんから「1on1のような場で黙っていられない」と聴きます。
「助言を行わないと、上司としての役割を全うしていない」と感じる人すらいます。業務を進めるための打合せなら良いですが、1on1はそうした場ではありません。(276ページ)
特に、キャリアに関する話をする場合、キャリア形成の責任者は本人、つまりメンバー自身です。ときにはアドバイスも有用ですが、基本的には本人がどう考えるか、です。上司らしいアドバイスをせねばと考える必要性は弱いです。
共同作業としてのコミュニケーションにおいて必要なのは、「聴いて理解している」ことでなく、「聴いていることが相手に伝わること」です。(276ページ)
1on1などで、腕組み・足組みをしたり、ずっと目線を合わさなかったり、不機嫌そうな表情をしていたり、パソコンの画面や携帯電話をチラチラと見ていたり、そんな態度や表情で部下は「話を聴いてもらっている」と思いますかね?
オンラインで行うマネジメント研修の参加者の中には、表情も変えず、うなずきもせず、という方を見かけます。こちらからすれば「聞いてます?」と言いたくなります。

組織メンバーに対して、同じような態度・表情をとっていないか心配になります。もしそうだとすれば、その人とメンバーの間に対話は成立しないんだろうなと考えてしまいます。
相手の話を聴くことを、態度や表情なども含めて、もっと丁寧にやりましょう。
過去の情報を「アンカリング」する(294ページ)
キャリア面談のもっとシンプルな問題として、上司は、意外と部下のことを知らないという問題があります。(294ページ)
ホントにそう思います。穿った見方をすれば、上司が部下の過去に興味/関心がないのではないかと思います。
部下が年上の場合には、どうしても見られていない、知りにくいキャリア情報がたくさんあります。そして部下の立場からも、上司がどの程度自分のことを知っているかがかなり不透明になります。(294ページ)
キャリアに関して対話しようにも、部下に関して知らないことが多いと、そのような質問をすればいいのか、何を話していいのか、さっぱり分かりませんよね。そうすると対話は成立しません。
さらに言えば、キャリアは過去から現在、未来への続く道のりです。「これから(未来)」を考えるのに、「これまで(過去)」は欠かせない要素です。それを上司と部下の間で話をすることはとても大切です。
誰だって誇れる仕事、頑張った役割を持っています。年上部下に「昔の話を聞かせてください」とお願いすれば、照れくさがるかもしれませんが、嬉しそうに話してくれますよ。私はそんな姿をたくさんみてきています。
1on1で行うのでもいいですが、チーム全体で「互いの過去を知る」というセッションをやることもお勧めします。チーム内にコモン・センスが生まれますので、チーム内に対話しやすい環境が醸成されます。(私は、組織開発の営みとして、この類いの取組みを何度も支援しています)
※テクニカルな話ですが、部下に過去の聞くときは所定のシートを用意して、社会人スタートしてからの歴史を事前に書いてきてもらうといいでしょう。
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今日は、小林祐児さんの新著をもとに書いてきました。
質の良い、継続的な対話を促すために、本に書かれている内容で既に取り組んでる施策もあります。まだまだ不十分な面もありますので、この本から得た学びを実際に現場で活用していこうと思います。
小林祐児 著『職場の対話はなぜすれ違うのか』光文社新書 2026年

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