普段ご支援している大学の学生たちと話をしていますと、就職先としてコンサル業界を希望している人が結構います。深くかかわった学生の中には、卒業後にコンサル業界へ入社した人も複数います。
近年、コンサル業界が(新卒に限らず)大量に採用しているのは何となく知っていました(→ 関連記事:ムービン社さんのサイト)(→ 日経新聞社さんの最近の記事)。
そんな折、以下の本を読んでみました。著者のことはあまり存じ上げなかったのですが、略歴を拝見するとマルチな才能をお持ちの方のようです。(うらやましい!)
レジ-著 『東大生はなぜコンサルを目指すのか』 集英社新書 2025年
本の内容は、タイトルにある“東大生”に限らず、そこそこ偏差値の高い大学に通っている(いた)今どきの若者の持つ職業観と、彼/彼女らを取り巻く社会全体の風潮が論じられている印象で面白かったです。
今回のブログは、この本に書かれている内容をヒントに、ミドルマネジャーに関連しそうなことを3点書きます。
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1.成長したい < 安定したい
結局、「成長したい」の裏側にあるのは「安定したい」なのである。・・・(中略)・・・・。しかし、今はポータブルスキルとともに働く場所を変えながら、どこからも求められる人材として働けるようになることこそ安定に他ならない。(51ページ)
不安定ながらもエキサイティングな場所を目指して成長に突き進むのではなく、盤石な何かが欲しいからこそ成長を求める。(52ページ)
安定のために成長を目指さざるを得ない、安定のために成長したいと思わされている。(90ページ)
今どきの若者は「成長意欲が強い」という言説をメディアで耳にします(→ 例:NIKKEIリスキリングさんのサイトへ)が、若者にとって成長は目的ではなく、安定を得るための手段と著者は論じています。

コンサル業界を目指すのは、コンサルタントとして華々しく活躍したいというわけではなく、コンサル業界で習得できるとされているスキルが汎用的(=ポータブル)で、将来を安定的にするために良さそうだから、とりあえずはコンサル業界へ・・・という感じなのでしょうかね。

私はここ数年大学生と接していますが、メディアで喧伝されているほどには彼/彼女らの成長意欲を感じとれません。コンサル業界や大手企業を志向している彼/彼女らを見ていますと、「成長より安定」 という主張に、私は肌感として納得できます。
そうしますと、若者を預かるミドルマネジャーとしては、「この職場にいると、どこにいっても通用するスキルが身につきますよ」という点を強調して若者と接する必要がありますね。これは、古屋(2023)が提唱した「キャリア安全性」という概念にもつながります。
参考書籍:古屋星斗 著『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』日経BP 2023年
ミドルマネジャーには、仕事で成果をあげるために必要なスキルを明確にできることが求められることになります。
ミドルマネジャーの皆さん、
Q. スキル(skill)、知識(knowledge)、態度(attitude)の違いは言えますか?
Q. スキルを大きく3分類することがありますがご存じですか?
(答え:コンセプチュアル・ヒューマン・テクニカル)
まずはこのあたりが分かっていれば、仕事で必要なスキルを明確にでき、部下にどのようなポータブルスキルを習得できるかを説明できると思います。
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2.ズレた「傾聴」
1on1、もしくはコーチングといった昨今の人事制度で持てはやされている仕組みについて語られる際によく「傾聴」という言葉が使われるが、結局これも企業側もしくは上司側にとって都合の良い方向へと誘導するためのスタンスでしかないケースが多い。それは傾聴ではなく、あくまでも望んだ結論に持ち込むための交渉術である。(86ページ)
成長を目指すビジネスパーソンは、企業にとって都合の良い形に加工された自発性と主体性にいつの間にか取り込まれていく。(88ページ)
「傾聴」は、ミドルマネジャー向けの研修では頻出ワードです。そして、頻出するということは、日常では実践されていない、あるいは間違って実践されているということが言えそうです。

著者が指摘している「企業側もしくは上司側にとって都合の良い方向へと誘導する」という点ですが、これは決して間違ったことではないと私は考えます。
なぜなら、組織が掲げている戦略に則って、全ての従業員が仕事をやっているわけですので、戦略の沿った個人目標が部下との間で設定されているのであれば、その方向へ部下を誘導するのは何の問題もないはずだからです。
もう1つ言いたいのは、部下が自ら選んで(自発的・主体的に)今の仕事をやっているという感覚を持っているのであれば、企業の目指す方向に誘導しても構わないと考えます。
裏返しますと、戦略に沿った個人目標が設定されていない場合や、部下が今の仕事をしようがなくやっているという感覚を持っているようであれば、部下の話をいくら上手に傾聴したとしても、その行為に大した価値をないと言えます。

まずは、戦略に沿った個人目標を設定したり、会社と個人は双方に選び合う関係というスタンスで部下と接したりするなど、本当に意味のある「傾聴」を行うための地ならしをしなければなりません。
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3.成長させない環境づくりにまい進する日々
ゆるい職場にいると成長できないのだとすれば、それは自身の今後の安定を保証する基盤を獲得できないということである。(189ページ)
一寸先は闇とでも言うべき今の時代において、この環境を「成長機会の失われた環境」と感じる層が着実に増えつつある。成長に囚われる人々が「ホワイト」を「ゆるブラック」と読み替えてしまうのは、世の中を覆う余裕のなさの裏返しなのかもしれない。(190ページ)
働きやすさだけにフォーカスすることで熱意ある社員のやる気を削いでしまうと、個人のキャリアとモチベーションの課題のみならず、企業全体の問題に発展するということでもある。(192ページ)
いま、成長したいと思っている人を応援できない/しづらい環境が世間に存在しています。
私には、多くの会社が従業員に甘いことばかりを言っているようにみえます。それがかえって従業員の成長を妨げていませんか?

皆さんはどう思われますか?
一方で、会社はミドルマネジャーにはこんなメッセージを出しています。
▲高い挑戦をさせろ。ただし、パワハラと受け取られるなよ
▲仲良し職場をつくって、イノベーションを起こしなさい
▲高い成果を出せ。でも、労働時間を管理して残業させるな
▲部下の成長を支援しろ。で、エンゲージメントスコアを上げろ
無理ゲーです。こんな中で、ミドルマネジャーは部下に対してどう振舞えばいいのでしょうか。

小林(2024)の言うように、私は、罰ゲーム化したミドルマネジャーを救う一案としてフォロワー(=従業員)へのアプローチが必要だと考えます。
参考書籍:小林祐児 著『罰ゲーム化した管理職』集英社インターナショナル 2024年
会社として、従業員に以下のようなメッセージを明確に出す必要があると私は考えます。
〇高い挑戦をしろ
〇自分で選んだ会社・仕事なら文句を言うな
〇生産性を必ず上げろ。高い成果を出すか、コスト・時間を削るか
〇上記を避けるなら、どんな処遇になっても文句を言うな
「会社と個人は対等な関係」と多くの企業が謳っていますが、現状を見るとそうなっていません。ミドルマネジャーは会社側の人間なはずです。にも拘わらず、力関係が
ミドルマネジャー<従業員
になっています。とても対等とは思えません。会社は従業員には「失敗してもいいから」と言ってますが、ミドルマネジャーには失敗やトラブルメイクを絶対に許さない環境もあります。
最近、若者やZ世代の傾向に関する本がよく売られていますが、結局はミドルマネジャーに何とかしろというメッセージでまとめられることが多いです。
同意できる部分もありますが、会社や人事、そして若者やZ世代に対して、強い/厳しいメッセージを出さない限り、ここ近年の傾向が今後更に強まるだけだと思います。そして、会社がミドルマネジャーを守ってあげないと、経営はボロボロになりますよ。

経営や人事の皆さん、この状況、風潮を正していきませんか。
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