前々回、前回に引き続き、約10年前に取得した調査データをGeminiさんに分析してもらい、同じ組織の中で昇進したマネジャー(内部昇進マネジャー)と外部からキャリア入社してきたマネジャー(外部招聘マネジャー)との間にある差異に着目し、何か興味深い示唆はないかどうかを確認していくシリーズの最終回です。

今回は、外部招聘マネジャーだけに焦点を当てて、組織再社会化についてみていきます

うんっ?組織再社会化ってなに?
という方は多いと思います。
組織再社会化とは、学術的には、
前所属組織を去った個人が、新組織の一員となるために、新組織の規範・価値・行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を習得し、新組織に適応していく過程(長谷川,2003)
や
個人が新しい組織の要求する課題の達成・態度の獲得をめざしていくこと(山村,2007)
などと定義されています。平たく言えば、
よその組織から来た人が新しく加わった組織になじんでいく過程
といった感じでしょうか。
約10年前の調査では、中原(2012)を参考に、組織再社会化における学習課題、つまり、新組織になじむために学ばねばならない課題として、
①スキル・知識獲得
②人脈政治知識獲得
③評価基準・役割学習獲得
④学習棄却(≒ それまでに得た知識や経験を捨てること)
の4つを取り上げ、調査データを取得しました。(→ 補足説明は「日本の人事部」さんのサイトへ)

これらの学習課題に加えて、当時の調査では、独自概念として「信念・経験活用意識」というものを加えました。
その理由は、アンケート調査前に行ったインタビューで、外部招聘マネジャーたちは新組織において様々なことを学ぼうとするだけでなく、「自らの経験や知識をいかに新しい職場で活用/発揮するか」を考えている様子が伺えたためです。
今回、Geminiさんには、4つの学習課題と「信念・経験活用意識」が、「業績」や「有能感(=私、イケてんじゃね?感)」にどう影響しているのかを分析してもらいました。つまり、新組織で活躍するには何が影響しているのかを調べてみました。
分析モデルはこんな感じです。

果たして、分析結果やいかに。
業績、有能感との関係性
「業績」との関係性について、下図の通りでした。
青線上に書かれている数値に「*」があれば、確かに影響のある関係だと思ってください。どうやら、「評価基準・役割獲得」と「信念・経験活用意識」が「業績」に影響しているようです。

一方、「有能感」との関係性についてはこんな感じでした。
「人脈政治知識獲得」と「信念・経験活用意識」が「有能感」に影響しているようです。

分析結果に関して、Geminiさんは以下のようにまとめていました。
① 独自概念「信念・経験活用意識」の圧倒的な重要性

この研究独自の概念である「信念・経験活用意識」が、「業績」「有能感」の両方において最も強い正の規定要因となっている
外部招聘マネジャーは、新しい組織になじむこと(組織再社会化)以上に、「これまでの自分の武器をどう持ち込むか」という主体的な意識が、業績(客観的な手応え)と有能感(主観的な手応え)の両方を支えている
② 「役割獲得」は業績へ、「人脈獲得」は有能感へ

- 評価基準・役割獲得:「この組織で何が評価されるか」を理解することは、組織の期待に応える(=業績を出す)ための最短ルートとなっている
- 人脈政治知識獲得:社内の力関係やネットワークを把握することは、直接的な業績よりも、「自分はこの組織でやっていける」という本人の有能感を高める効果がある
③ 「学習棄却」のジレンマ

今回のデータでは、学習棄却(≒ 過去のやり方を捨てること)は、むしろ業績や有能感に対してわずかにマイナスの影響を与える傾向が見られる。
解釈:
一般に学習棄却は推奨されますが、マネジャーとしての移動の場合、過去を捨てすぎると「自分の強み(信念)」まで失ってしまい、結果としてパフォーマンスが低下するリスクを示唆している

Geminiさんの分析結果および解釈を受けて
Geminiさんの分析結果、特に「学習棄却」に関する解釈は個人的経験からして納得感のあるものでした。
私は転職した際に、マネジャーとしてのそれまでの経験や知識を“棄却する”という思考はあまりなく、むしろいかに上手にそれらを活用するか、その場面・タイミング・相手を探っていました。

新組織において、「昔の会社では・・・」というセリフの使い過ぎには要注意です。どうやら嫌がられますね。
やはり、
プレイヤーとして新組織に加入するのではなく、マネジャーとして加入するということは、学習課題の様相が大きく異なる
のではないかと考えます。
外部招聘マネジャーへのインタビュー調査で複数の方がおっしゃっていた、周囲からの「お手並み拝見」という視線や態度ですが、もう少し具体的に、周囲は“何に関する”手並みを様子見しているのかを想像するに、恐らくこんなことだと思います。
■ 同階層以上のマネジャーからは「マネジャーとしての力量」
■ 部下からは「プレイヤーとしての力量」 + 「前任のマネジャーと比べてどうか(やりやすいか)」

そのような周囲からの視線や態度に対して、これまでに培った知識や経験を上手に示すことにより、前回のブログ(→ 前回のブログへ)で書いたような「印象管理・一貫性」を行い、マネジャーとしての正当性を得ていき、業績をあげたり、有能感を得たりするのではないでしょうか。
厳密な分析とは言えませんし、何しろ約10年前の調査データですので、堂々と言えるものはありませんが、
マネジャーの組織再社会化の成功は、「学習棄却」より「信念・経験活用意識」+「印象管理・一貫性」
のほうが鍵を握っているような気がします。
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もうひとつ。
前回のブログで書きましたが、部下に対する行動の中で「人間関係・配慮」が「有能感」に有意でした。部下に気を配り、関係性を構築することで「私って、マネジャーとしてイケてる(うまくやっている)」という感覚に繋がるんでしょうね。

今回は、組織再社会化における学習課題である「人脈政治知識獲得」が「有能感」に効いているという結果でした。これは、部下以外の人たち、例えば、上位マネジャーや他部門のマネジャーなどとの繋がりが関係しています。
そうしてみますと、部下に限らず、社内のステークホルダーとの関係性が構築されることも「私って、マネジャーとしてイケてる」という感覚に繋がるんでしょうね。まあ、分かる気がします。
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今回のまとめ
外部招聘マネジャーは、自らの期待されている役割や成果を正確に理解し、それまでに培った知識や経験を上手に示すことで成果につながるのではないか。

過去の知識や経験を捨てる必要はなさそうですが、「前の会社ではこうだった」という言葉の乱用は危険です。分析結果からの示唆ではありませんが、経験上、私はそう感じています。
3回にわたって、古い調査データを活用してあれこれ見てきましたが、分析結果を見ますと、現在にも活かせそうな示唆がもらえた気がします。

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